(菅原)2022年12月28日の対談配信で、日本のBPO大手企業の取組の一例として、大日本印刷株式会社(DNP)さんの例を挙げました。2023年2月1日、デジタル庁の加藤企画官と共に、DNP情報イノベーション事業部の木村さん/橋本さんにお話を聞く機会を得ましたので、内容を対談形式にてご紹介いたします。
(加藤)なかなか新鮮ですね。私のDNPさんの印象は、日本の印刷業界における大手企業というものです。また、デジタルインボイスの取組の中でもDNPさんとはあまり接点はありませんでした。
(DNP)DNPは、出版・商業印刷をはじめ、ICカード、マーケティング支援、包装、産業資材、電子部材まで幅広い事業を展開しております。
(詳しくはこちら:事業領域 | DNP 大日本印刷)
1876年の創業以来培ってきた独自の「P&I」(印刷と情報:Printing & Information)の強みを掛け合わせるとともに、社外の多くのパートナーとの連携を深めて社会課題を解決し、人々の期待に応える「新しい価値」を創出しております。
その中で、請求書等の帳票印刷を受託しておりましたが2002年から、金融機関向けに電子交付サービスを開始し、生損保の保険証券、クレジットカード明細の電子化に展開してきました。最近は、電子契約も実施しており、契約書の電子化も推進しております。
(菅原)DNPさんのサービスを活用することで、請求を含めたバックオフィス業務の効率化が実現されるわけですね。依然として、日本企業における電子化、ペーパーレス化のニーズは高いですよね。
(加藤)請求業務のペーパーレス化も様々な恩恵がありますよね。ただ、大事なことは、それはデジタル化への足掛かりにすぎないということです。例えば、紙の請求書をスキャンした画像データは、人が「見る」ためのもの(ヒューマン・リーダブルなもの)であり、システムによる自動処理に向きません。デジタル化で必要なのは、システムが自動処理できることであり、マシーン・リーダブルな構造化されたデータであることです。
(DNP)おっしゃる通りで、DNPの電子交付システムは、請求書のPDFを交付しており、システムでの自動処理ができません。その為、Excelで集計やコピー&ペーストで請求業務が軽減できるようにCSVファイルを配信する等の工夫もしています。ただし、それはデジタル化ではありませんので、structured data(構造化されたデータ)なインボイスの検討を日々、実施しておりました。
(加藤)CSVファイルも、構造化されたデータの一種ともいえなくはないですが、結局のところ人による処理が前提です。ところで、DNPさんが考えるstructured dataのインボイスというのは、Peppol e-invoiceということでしょうか。ご存じのとおり、Peppol e-invoiceは、標準化され、構造化されたデータです。デジタル庁は、Peppol e-invoiceを日本のデジタルインボイスの標準仕様とする取組を行っています。
(DNP)そのとおりです。例えば、現在、DNPは金融機関に対し、サービス手数料に係る請求を電子的に行うことができるサービスを提供しています。ただ、その請求は、PDF送信で行っています。そのPDFをPeppol e-invoiceに変えていきたい、そう思っています。得意先との調整にもよりますが、本年度中には、対応を始められるようにしたいと思っています。
(菅原)良い取組です。そのスコープを金融機関だけにしぼってしまうのはもったいないですね。
(DNP)そのとおりです。金融機関向けサービスにおける成功事例を他の業界向けのサービスにも広めていきたいと思っています。
(加藤)DigitizationからDigitalizationにどうつなげていくのか。step by stepで進めていくのはよいことです。ところで、Peppol e-invoiceへの対応においては、Peppolネットワークへの接続ということも重要となります。DNPさんは、Peppolネットワークへのアクセスポイントを自ら構築するのですか。それとも他のPeppol Certified Service Providerを活用するのも選択肢になりますが。
(DNP)アクセスポイントを自社で構築するかについては、海外事例を調査しプロコンを作成し、導入に向けて検討中となります。
(菅原)一つ質問があります。これまでお話してきたとおり、構造化されたデータのインボイスによりシステムによる自動処理が可能となります。一方で「紙の請求書やPDFがなくなると、従来の請求書業務上で行っていた確認作業は、どうすればよいのか?」といった素朴な疑問の声もよく聞かれます。この点、どうお考えですか。
(DNP)よくある話ですね。人は、構造化されたデータのインボイスそのものを確認する必要はなく、あくまでもシステムが構造化されたデータを自動処理した結果を確認するということになります。その観点から言えば、ビューアーの話ですね。
(加藤)システムが処理した結果を人がどのように確認できるのか。それも重要なポイントだと思います。ただ、繰り返しになりますが、大事なことは「システムがデータを自動処理すること」です。
(DNP)そのとおりですね。ところで、最後に伺いたいことがあります。今般のPeppol e-invoiceと消費税の適格請求書等保存方式との関係です。このPeppol e-invoiceは、消費税制度の中のものなのでしょうか。
(加藤)Peppol e-invoiceの取組は、請求業務のデジタル化を目的にしています。ちなみにPeppol e-invoiceは制度ではありません。単なるツールです。もちろん、Peppol e-invoiceは、消費税制度の適格請求書の記載事項を満たすことができるような仕様です。したがって、法令で求められる事項を含んでいるのであれば、それは適格請求書になり得ます。
(菅原)DNPさんの一連の取組は注目すべきものであるとともに、請求業務のアウトソーシングを受ける他の事業者に対し、非常に大きなインパクトを与えることになると思います。ぜひ、早期のサービス提供を開始し、Peppol e-invoiceの利用が広がるよう、貢献いただきたいと思います。
今日は貴重なお話をお聞かせ頂き、有難うございました。