(菅原)お久しぶりです。初対面は4-5年前ですね、当時、加藤さんは財務省、私はバイオテクノロジー企業で働いていました。まさか、このような形でお会いし、対談までするとは考えていませんでした。
(加藤)私も再会できてうれしいです。まさかExchange Summit 2021 in Viennaでの私のスピーチを現地で聞いていたとは思いませんでしたし、菅原さんがE-Invoiceの世界に身を置いていることにも驚きました。QMS Internationalで働きだすきっかけは何があったのですか?
(菅原)バイオ企業で働いている時代に、製造工程、品質管理はもちろん、種々許認可や国ごとの対応をしないとたとえ良い商品でも顧客のもとに届けられないという経験をしました。すべてデータ化しているとは言っても、顧客ごとにフォーマットが違う、数多い認証団体に毎回書類を提出して認証を得ないといけない、など、ペーパーワークは減っても結局入力しなおしなど、単純作業が増えて何とか良い仕組みはないのかと思っていました。
また、コロナで働き方が変わったとき、ちょうど20年の春位に、傷ついた産業の復活に、健康関連分野とブロックチェーンについて政府が積極的にスタートアップを援助する、というようなスイスのニュースを偶々見て、フィンテックではないブロックチェーンが使えないか、と思いました。色々探した挙句、自分の住む州に、Quadrans財団というNPOがオープンソースでブロックチェーンを供給していると知り、コンタクトをしました。その後、QuadransのCEOが持つイタリアのアプリ/ソフトウェア会社Foodchainとの合弁として、欧州以外への展開や戦略プロジェクトのマーケティングを担う目的で設立したのがQMS Internationalです。
IT・ハイテクビジネスに業界転職したという認識ではなく、プラットフォーム提供、公共財の提供という使命で動いています。(よく言うIT業界の人、動きと違うのでは、と自覚)。畑違いですが、マーケティング、ストラテジーとして比較的早くキャッチアップできたのはそのようなところだと思います。畑違いといえば加藤さんはなぜにデジタル庁?何を担当していますか?
(加藤)とても興味深い話ですね。私の話をします。私はこの9月からデジタル庁で働いています。デジタル庁は9月に新しく設立されたものなので、私はそのイニシャルメンバーの一人です。
私の主な役割は、日本の電子インボイスのプロジェクトをリードすることです。ご承知のとおり、そのプロジェクトは、昨夏より、EIPAと連携し、開始されています。最初のステップは電子インボイスの仕様についてペポルをベースとすることを決めることでした。昨年12月、デジタル改革担当大臣がそれを決めました。その後、現在に至るまで順調です。最近では、その仕様のドラフトをOpen PeppolのHPで公表しています。
私の専門は税制です。とりわけ、消費税制度には6年間携わっています。2023年10月から実施される、欧州と同様の仕入税額控除の仕組みである「適格請求書等保存方式」の策定にも携わりました。その知識と経験を最大限活用しています。
(菅原)日本の請求処理も含めたバックオフィス業務は「紙」を前提としたものが多い印象です。その日本で電子インボイス推進の取組が始まった背景には何がありますか。
(加藤)コロナの感染拡大により日本の事業者の紙を前提としたバックオフィス業務の非効率さが露呈したと言われています。そして、それまでのやり方が崩れ、DXを進めなければならない機運が高まったことも事実です。
その観点から、電子インボイスは一つの手段になると考えられるようになりました。事業者自らが電子インボイスの活用を意識したことは、その普及の観点から非常に重要だと思っています。
(菅原)電子インボイスに関しては、QMS InternationalはPeppol ACをとり、アクセスポイントにブロックチェーンを接続するプロダクトを出しました。ウィーンのExchange サミットに出席しましたが、欧州の進め方、進み方、日本の立ち位置など勉強になりました。加藤さんも発表の中でB2Bと明言され、海外から日本に参入しようという企業が増えてくるものと考えます。我々QMSもその一つなのですが。
(加藤)先ほども説明しましたとおり、日本の電子インボイスの取組は事業者も主導しています。したがって、B2Bでやり取りされる電子インボイスの普及が最優先となります。もちろん、B2G電子インボイスの作業も開始しなければならないことはわかっていますが、現時点では、それは次のステージで取り組みたいと思っています。
もちろん、そのB2B電子インボイスは、税法の要件を満たしたB2B電子インボイスを意味します。それ故に、現在、日本の消費税法に合うよう、Peppolの標準仕様の拡張に取り組んでいるところです。
ちなみに、税法の要件を満たしていないB2B電子インボイスは、むしろ非効率を生むと思っています。なぜならば、事業者は税法の要件を満たすために別のドキュメントを発行・受領することになるからです。間違えなく二度手間です。
(菅原)そうですね。ところで、ウィーンのExchange summitの会場でも話題になったのだが、日本では電子インボイスの発行が義務となるのか。また、日本での電子インボイスプロジェクトのゴールは何なのか、簡単に教えてください。
(加藤)日本では、電子インボイスの提供は義務ではありません。消費税法であっても、登録番号を有する課税事業者が「紙」の適格請求書を発行することを認めています。
日本での電子インボイスプロジェクトの目的は、電子インボイスの利用の普及ではなく、それを活用したバックオフィス業務の効率化です。したがって、例えば、紙を前提とした業務プロセスで更なる効率化を実現できるのであれば、それは一つの選択肢になります。その判断をするためにも、電子インボイスの活用によるベネフィットをしっかり理解してもらう必要があると思っています。
(菅原)ありがとうございます。次回では、日本の標準仕様の考え方などについて、もう少し掘り下げて聞いてみたいと思います。