(菅原) QMS InternationalはEIPAのメンバーになりました。デジタル庁から見て、QMS Internationalのような海外企業がEIPAのメンバーになることにどんな期待をしますか。
(加藤) EIPAは、当初10社の会計・ERPベンダーで設立された民間団体です。同時に、日本での電子インボイスの取り組みにおいては、私たちの重要なパートナーです。連携して進めています。
現在、EIPAの会員は急速に増加しています。ただ、その大半は日本企業です。個人的にはその点は懸念しています。なぜならば、電子インボイスをめぐるグローバルの最新の動向を認識しておくことが不可欠だと思っているからです。
私は、QMS Internationalが、自らのサービスプロバイダーとしての経験のEIPA会員への還元により、新しい風を吹き込んでくれるものと確信しています。
(菅原) そうですね。電子インボイスの議論はまさに欧州が中心です。Peppolの議論も含め。ただ、海外企業にとって、それを知っているだけでは十分ではありません。日本のマーケットでビジネスをするためには、日本の仕様のコンセプトを正確に理解しておくことも重要です。少しご説明ください。
(加藤) まず、日本の電子インボイスの取り組みにおいて、”E-Invoice”は“B2B Tax compliant e-invoice”だということを認識する必要があります。ここでいう”Tax”は”Japanese Consumption Tax”です。この”Japanese Consumption Tax”は細部には違いがあるが、ほとんどEUVATと同じです。
したがって、例えば、JapanSpecificationの中にあるJapan ruleを理解するとしても、それほど難しいことではないと思います。
(菅原) 日本の仕様はPINTをベースにしていると聞きました。Exchange Summit 2021 in Viennaでも、Open Peppolは「PINTをベースに自国の仕様を作成するのは日本が初めて」と発言していました。このような新しいアプローチを採る理由について教えてください。
(加藤) 非常に鋭いご指摘です。例を挙げて説明します。例えば、「インボイスに記載する税額」です。この点について、EU VATと消費税制度では違いがあります。
EU VATでは、”Invoice Total Tax amount”をlocalcurrencyで表示することが求められます。BIS Billing3.0でもそれを表現できるデータモデルとなっています。他方、消費税法では”Tax amount per tax rate”をlocal currencyで表示することが求められています。ただ、これはBIS Billing3.0ではサポートされていません。故に、拡張の必要性を認識しました。
ご存じのとおり、BIS Billing3.0は既に実装されています。そのため、調整や拡張は難しく、その可能性も非常に限られています。そのような制約を勘案し、BIS Billing3.0をベースに日本の仕様を策定することが難しいことに気がつきました。
その結果、EU VATのコンセプトに縛られていないPINTをベースに日本の仕様を策定することを決定しました。
(菅原) 紆余曲折があったわけですね。PINTもPeppolの標準仕様の一つです。それをベースとしても相互互換性が維持できますね。他の拡張項目について、簡単に説明いただけませんか。
(加藤) 請求明細行で納品書を参照するためのデータモデルをPINTに追加しています。これは、必ずしもインボイスに必要ありません。ビジネス要件です。
日本の事業者のバックオフィス業務では、インボイスの請求明細行の情報を他のドキュメントの情報、例えば、受発注や納品に係るドキュメントと突合して確認することが一般的です。この二つの追加したデータモデルを用いることで、その作業の効率化が図られると考えています。
(菅原) なかなか理解が難しいですね。請求内容の確認は必要ですが、この点は意見がわかれそうなところですね。ところで、加藤さんには多くの海外企業がコンタクトしていると思います。どんなことに興味がある様子ですか。
(加藤) 多くの海外企業は「日本がPINTをベースに自国の仕様を作成する」という事実にのみ関心があるようです。また、単に仕様の「差異」を明確化しようとする傾向があります。
ただ、肝心なのは、その差異の理由です。その理由を正確に理解することで、日本の仕様の理解につながり、日本での取り組みが目指しているゴールの理解につながると思っています。
もちろん、あまり深く考えず、日本の仕様に対応して、日本のマーケットでビジネスを展開することも可能です。ただ、せっかく日本のマーケットでビジネスをするのであれば、単に電子インボイスをやりとりできる、ということでなく、そこに何らかの付加価値を付けてもらいたいと思っています。
(菅原) 日本の企業と同じサービスを提供するだけでは魅力がないということですね。そういう意味では、QMS Internationalはブロックチェーン技術を活用し、電子インボイスをより効率的にやり取りすることを可能にするサービスを提供できると考えています。次の対談で、その詳細を説明したいと思います。